「人種のるつぼ」と言われるアメリカ。
スピーチセラピーの分野でも、異文化の理解・尊重、という概念は当然の知識として扱われるようになってきています。
そんな中ですが・・・ 異文化・異言語を理解・尊重しようとするあまり、見過ごされてしまっている障害や症状がある、というのを感じることがあります。
たとえば、言語の遅れ。
日本語と英語のバイリンガル児で、日本語が第1言語で生活しているお子さんの場合、英語の言語発達が遅れる可能性があります。
しかし、英語・日本語ともに発達が遅れている場合、『バイリンガル』という生活環境のみでなく、言語障害あるいは言語発達遅滞があるという疑いを否定できません。
そういった場合でも、小児科や学校で相談しても「バイリンガルだから・・・」といわれ適切なサポートを紹介してもらえなかった、というケースがよくあります。
対人関係スキルの遅れ。
私がアメリカで大学院に通っていた頃、アジア系のお子さんのセラピーを見学する機会がありました。
言語発達の遅れのためにセラピーを受けていたお子さんでしたが、私としてはそれ以上にそのお子さんの視線のあいにくさ、表情の乏しさが気になりました。
セラピー後、担当のSLPにその点について話したところ、 「でも、彼は○○出身(アジアのある国)だから。だから(アジアの文化だから)、目が合いにくいんだと思うの。」 という返事が帰ってきました。
つまり、このケースの場合、文化の違いを尊重するあまり、彼の対人関係スキルの遅れが見逃されてしまっていたのです。
そして、最もわかりやすい例が構音発達の障害や遅れ。
日本語にない発音ができない場合、それは構音発達の障害や遅れではなく、アクセントの問題です。
例えば、th, r, l, f, vといった子音やいくつかの母音がこれに含まれます。
しかし、例えば、カ行やタ行が上手に発音できていない場合、kやtの音は日本語にもある音ですから、これは、アクセントではなく構音発達の障害や遅れの疑いがあります。
バイリンガルのお子さんの発音がはっきりしない場合、2つの言語に含まれる音を比較しなければ、それがアクセントによるものか構音障害なのか、を判断することはできないのです。
私はアメリカに住む日本人SLPですから、日本語と英語の比較や日米の文化の違いをふまえた上でセラピーを行うことは日常茶飯事です。
しかし、接したことのない文化や言語をもつ方のセラピーを担当する場合、適切な診断や治療を行っていくことは容易ではありません。
ただその場合、すでにもっている知識だけで判断してしまうのではなく、その文化や言葉について調べたうえで、できるだけ適切なサポートができるよう最大限の努力をすべきだと感じています。