ここ最近、日本および海外のバイリンガル環境で子育てをしている方々から、お子さんの言語・コミュニケーションに関する相談を受けることが増えています。

すでに他機関が検査をした方、学校での検査をすすめられた方など様々ですが、共通している問題があります。

それは

評価や支援にバイリンガル環境で育っていることが十分に考慮されていない

ということです。

そのことが、お子さんの学習のつまずきやご家族の不安・心配の原因となっているケースが多々あります。

あらためて、2つ以上の言語に触れて育っている子どもの言語発達に関して、各言語の発達に影響を及ぼす要因を見ていきながら、バイリンガル児の言語・コミュニケーションを評価する際に留意しなければならない点についてまとめてみたいと思います。

言語発達に及ぼす要因について

バイリンガル児の言語力に関しては、様々な要因がその達成度に影響を与えます。いくつかの例をあげてみたいと思います。

環境的要因

  • 各言語を使う場面(家・学校・地域など)と頻度
  • 各言語を使う文脈(友人との会話・近所の人との会話・学習場面で見聞きする言語など)
  • 本やおもちゃなどのリソースへのアクセスの有無、その質や量
  • 周囲の各言語に対する理解や態度
 

個人の要因

  • 言語力や認知力
  • お子さんの性格や興味
  • 各言語環境下での経験
 

2つの言語を学び始める時期

バイリンガルとは、2つの言語を使って「話す」「聞く」「読む」「書く」ことができる人を意味し、一般的に、2つの言語を学び始めた時期によって「同時バイリンガル」「継起バイリンガル」(けいきバイリンガル)に分類されます。

  • 同時バイリンガル:誕生時あるいは3歳未満から2つの言語に触れて育った場合
  • 継起バイリンガル:1つの言語を習得した後に第2言語としてもう一方の言語を習得し始めた場合
 

言語間干渉

誕生時あるいは3歳未満から2つの言語に触れて育っている同時バイリンガルの場合でも、環境の変化等の要因によって、より得意な言語(優位言語)が変わることがあります。また、使用頻度が少なくなった言語の語学力が低下する場合もあります。

特に継起バイリンガル児の場合、母語の影響により、構音や文法、語彙の理解や使用に誤りが生じる場合があります。例えば、第2言語として英語を学んだバイリンガル児の場合、日本語にない音であるRやL、THの発音に誤りが見られたり、時制や複数形等の文法の使用に誤りが見られるなどがこれに含まれます。

さらに、2つの言語を使い分けられるようになる前の段階では2つの言語を混ぜて話すコードミクシングやコードスイッチングと呼ばれる症状が出る場合があります。

 

言語習得までに必要な時間

継起バイリンガル児の場合、要求される言語力の違いによって習得期間に違いがあることも認識しておく必要があります。

Basic Interpersonal Communication Skills(BICS):日常会話をするのに必要な言語力。通常、約2年で習得。

Cognitive Academic Language Proficiency(CALP):学習をすすめていくのに必要な言語力。習得には通常、5年~7年が必要。

すなわち、第2言語を習得し始めてからの期間によっては、流暢に第2言語で日常会話ができるようになっているとしても、学習場面では理解できなかったりうまく表現できないことがあるのです。その場合、言語障害や学習障害を疑う前に、その言語に触れ始めてからの期間を考慮に入れ、必要な学習サポートを提供することが大切です。

 

評価方法について

情報収集

ご家族や関係機関からの情報収集により、現在の言語・コミュニケーションの発達に関する要因を分析します。

その際、Response to Intervention (RTI) と呼ばれる方法により、段階的な指導や支援を行いながら、その指導や支援に対する反応を測定することにより、どのような支援が必要なのかを把握するシステムです。例えば、ELL等、第2言語を学ぶ場やクラスでの教科学習で取り入れられています。日本の学校現場でどの程度このRTIモデルが採用されているのかわかりませんが、評価にあたってはこのRTIの情報が重要な役割を果たすことに留意して情報収集をする必要があります。

言語の選択

言語発達につまずきあるいは障害がある場合、そのつまずきや障害は子どもが触れているすべての言語に現れます。

すなわち、日本語・英語のバイリンガル児の場合、日本語あるいは英語にのみ遅れが認められても、もう一方の言語が正常に発達している場合、そのお子さんの言語発達につまずきあるいは障害があるとはいえません。ですから、お子さんの言語・コミュニケーションの発達のつまずきの有無を評価するためには、そのお子さんが触れているすべての言語での力を知る必要があるのです。

評価に使用するツール

スピーチサンプル

お子さんの発話記録の分析から、構音や文法、場面に応じた言語使用等の情報を得ることができます。

標準化検査

標準化検査を使用する場合、モノリンガル児を対象に標準化された検査の検査結果をそのままバイリンガル児の評価に使用することはできません。評価の場面では、標準化検査を使用することも少なくないのですが、その場合、各言語における語学力および語学力内の得意・不得意を見出す目的で使用するということに留意しなければ、間違った診断につながってしまう危険性があります。

適切な評価により、効果的なサポートにつなげていきたいものです。

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