5月も最終週に入り、夏の気配を感じるようになってきましたが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。
今週は「今週の絵本」をお休みして、言語聴覚療法における評価の役割についてお話したいと思います。長文ですが、大切な情報ですので、ご一読いただければ幸いです。
そもそも、評価って何?
例えば、お子さんが突然発熱(①)したとします。
まず、体温を測り、睡眠をしっかり取るようにし、場合によっては市販薬を飲ませ、熱が下がることを願うでしょう(②)。
しかし翌朝になっても熱は下がらず、小児科を受診することにします(③)。
苦しんでいるわが子を目の前にして、親として「一刻も早く治してほしい」という願いのもと、診察室に入ります。
診察室に入ると、何が行われるでしょうか。
「一刻も早く治してほしい」親心を理解しつつも、医師はすぐに薬を処方したりはしません。
なぜでしょうか?
「一刻も早く治す」ためには、適切な検査を行い、正確に診断する必要があるからです。
医師は、
- 保護者からお子さんの様子を聞き取り(問診)
- 体温や呼吸、心拍数などバイタルサインをチェックし、
- 視診・触診・聴診により、身体の状態をチェックします。
- その後、必要に応じて血液検査や画像検査等の検査を実施します(④)。
その結果を総合的に判断し、正確な診断を行い、診断に基づいて投薬等の治療を行います(⑤)。
治療を開始後、3日後、7日後など、症状と治療効果を再評価し(⑥)、完全治癒を確認して治療終了となります(⑦)。
「一刻も早く治してあげたい」ために、検査をせずに治療を開始してしまえば、誤診のため、症状が良くならないどころか、場合によっては症状が悪化し、命にかかわることも起きかねません。すなわち、避けられたはずの重大な問題を招いてしまうことになりかねないのです。
実は、小児の言語聴覚療法におけるステップも同様なのです。
それがどういうことを意味しているのか、もう少し詳しくご説明します。
言語聴覚療法の場合は?
- 3歳になったのだけど、ことばが数語しか出ていない
- 思っていることを言葉で表現することができず、うまく伝わらないと癇癪をおこして、おもちゃを投げたり叩いたりしてしまう
- ミニカーを並べたり数字に興味があるが、おままごとなどのごっこ遊びに興味がなく、一人遊びが多い
- 数か月前から言葉につまり始め、最近は言葉が出ないときに苦しそうに見える時がある
などなど、言葉やコミュケーションの発達のつまずきに、まず親御さんあるいは園の先生など身近な大人が気づきます。これが、上記の①(子どもが突然発熱)の段階になります。
ご家庭で心配事を話し、何とか家庭内で解決を試みる方も多いでしょう。これが発熱の場合だと、「睡眠をしっかりとる」「市販薬を飲む」といった手順②にあたります。
それでも、心配は解消されない場合、言語聴覚士に相談します。これが、上記の③のステップです。
「すぐにでも問題の解決方法を知りたい!」というのが、親心です。
しかし、すぐに言語聴覚療法を開始することはできません。
なぜでしょうか?
もう一度、上記の「発熱」のケースに戻ってみましょう。
「一刻も早く治してあげたい」親心に応えるため、正確な検査・診断をせずに治療を開始してしまったら、誤診につながり、それが症状の悪化や重大な問題を引き起こす可能性があることをお話しました。
言語聴覚療法においても、同じです。
詳細な評価を実施しなければ正確な診断を行うことはできません。すなわち、「問題解決」を求めて言語聴覚士に会っているにも関わらず、症状の改善どころか症状の悪化につながってしまうこともありうるのです。
言語聴覚療法においても、評価(④)・正確な診断(⑤)、再評価(⑥)をしなければ、問題を解決(⑦)することはできないのです。
言語聴覚士は何を評価するの?
言語発達の遅れや対人・コミュニケーションの問題、吃音など、ことばやコミュニケーションに関する心配がある場合、その原因は様々です。
だからこそ、正確に診断するためには、表面に現れている問題だけでなく、潜在的な問題の有無も知る必要があるため、多元的に評価する必要があります。
では、言語聴覚士が行う「多元的な評価」とは、いったい、どういった側面を評価することでしょうか。
【言語】
- 理解・表出語彙
- 文法の理解と正しい使用
- 質問応答
- 聴覚記銘
- 聴覚分別
【対人・コミュニケーション】
- 発話意図・関係性の理解
- 非言語的コミュニケーションの理解・使用
- コミュニケーション場面における適切な言語使用
【構音】
- 音の誤りのパターン
- 非刺激性
- 構音器官
【音声】
【流暢性】
上記に加え、聴力検査や臨床心理士の行う発達検査の結果、関係職の評価も参考にしながら、言語・コミュニケーション力の評価・診断を行います。
評価の後は・・・
冒頭の例に戻ります。
評価(④)診断(⑤)をもとに、問題解決に向かうための目標設定を行います。
そして、設定した目標に基づきセラピーを開始したのちは、症状の変化や改善の様子を見て、セラピーの方向性が正しいかどうか、問題解決に向かって前進しているか、前進している場合、どの程度前進しているのか等のデータをもとに、問題解決までに必要な頻度と期間を定期的に再評価(⑥)する必要があります。
そしてもう1つ、忘れてはならない大切なこと
これまで、発熱の場合に小児科を受診するケースと照らし合わせて、言語聴覚療法のステップを見てきました。
ここで、もう1つ。
小児の発達に携わる言語聴覚士だからこそ忘れてはならないことについて―
子どもは、日々の生活の中で成長していきます。その成長を支援する専門家として、子どもの毎日を支えるご家族の方々との連携が不可欠です。
評価結果と発達目標の共有はもちろん、日々の発達や生活に関する情報やご家族の方々が日々感じていることをお聞きしながら、子どもだけでなく家族にとって最善と思われる方向性を探り、それをご家族と共有し実践していく、すなわち、家族と専門家が「共に歩んでいく」ことがとても重要なのです。
以上、言語聴覚療法における評価の役割についてお話しました。
評価結果をもとにすすめていく発達支援では、家族と専門家が「共に歩む」ことが重要だからこそ、評価の意味をご理解いただければと思い、今回記事にいたしました。
保護者の方々はもちろん、子どもたちの発達に携わる方々の参考にしていただければ幸いです。