新型コロナウィルス拡大防止のため、園・学校だけでなく習い事もお休みとなり、お子さんの発達について
「このままでいいのだろうか」
「発達が滞っているのではないだろうか」
と不安になられている親御さんも多いことと思います。
コロナが一刻も早く収束していつもの生活に戻ってほしいというのは、誰もが願っていることですが、お子さんの発達のためにも、「今、できること」に注目して実行していくことが大事だと感じています。ある意味、発想の転換によって、日常のちょっとしたことをお子さんの発達につなげていくことができるのでは―と。
そんな中、先日、オンラインセラピーのあと、あるお母様から『お手伝い』に関する素敵なお話をお聞きしました。そのお話をヒントに、『お手伝い』がいかに、お子さんの発達を促すことができるのかということについて、お話したいと思います。
そのお母様によると、休校中のある日、お昼ごはんのおにぎり作りを一緒にしたのだそうです。
まず、おにぎりを作る工程をお子さんに説明。
でも、すべてを説明するのではなく、お子さん自身が考える余白を残して、おにぎり作りのお手伝いがスタートしました。
ここから時系列に沿って、『おにぎり作り』というお手伝いと、このお母様の声掛けが、お子さんの発達にいかに役立ったのかについて、整理していきたいと思います。
指示を聴き、理解する力
お母様は、おにぎりを作り始める前に、おにぎりを作る工程をお子さんに説明しました。
- 手をぬらす
- 手に塩を少しつける
- …
これらの工程を聞いて、お子さんは、その指示の内容と順序を覚えました。
算数
そして、お母様は、お昼ごはんに家族全員がおにぎりを食べるには、何個のおにぎりが必要なのかをお子さんにたずねました。
ここで、お子さんは、
お父さんは2個、僕は1個・・・と家族一人ひとりが食べる量を計算し、おにぎりの合計数を出しました。
問題解決能力
おにぎりができたら、お母様はお子さんに、おにぎりをのせるお皿を出すように言いました。そして、お子さんが手にしたお皿を見たお母様は「そのお皿に、このおにぎり全部、のると思う?」という問いを投げかけました。
実は、この「問題提起」がとても重要!なのです。
お母様の問いかけを聞いて、お子さんは、あらためて、自分が手にしているお皿とおにぎりを見比べます。
そこで、自分が手にしている小さなお皿には、作ったおにぎり全部をのせることはできないことに気づきます。そして、どの大きさのお皿であれば、おにぎり全部をのせることができるだろうか?と考え、自らの力で問題を解決しようとすることができるのです。
お母様が選んだお皿におにぎりを並べたり、あるいは、あらかじめ、おにぎりを入れるお皿をお子さんに指示していたら、お子さん自身が問題を特定し、その問題を解決しようとする機会はありませんでした。こうした経験が、日常生活で遭遇する問題をお子さん自身が解決していく能力を育てることになるのです。
語彙力
適切なサイズのお皿を選ぶことができたあと、お母様はお子さんに「おにぎりを一列に並べて」と言ったそうです。
ここで、お子さんが困った表情をしたことに気づかれました。
お子さんが困った表情をしたのは『一列に並べる』という表現がわからなかったからでした。
そこで、おにぎりを並べながら『一列に並べるとは、こういうことやねんで』と説明されたそうです。
これこそ、生きた語彙学習!です。
お子さんがわからない表現を把握し、その場で、言葉で説明しながら実践して見せる。それにより、お子さんは、目と耳と皮膚感覚、運動感覚をフル稼働して語彙を獲得することができたのです。
単語帳やドリルを使って覚えた語彙は、使わなければ忘れてしまいます。
しかし、このように、耳で聞いただけでなく、目で見て、体験した語彙は、お子さんにとって『使える語彙』として定着していくのです。
ここで大切なことがもう1つ。
お子さんは、これまでの学校生活の中で「一列に並んで」という言語指示を聞いたことがあったことと思います。おそらくその時は、周りが「一列に並んでいる」様子を見て、言語指示が理解できていなくても、きちんと行動できていたのではないかと思うのです。そして、今回、お母様との手伝い経験を通して、お母様自身が、お子さんがつまずいていた表現に気づくことができ、その場で丁寧に教えることができたのです。
お子さんの発達支援を効果的に行っていくためには、お子さんの発達を正確に把握することが必要だということは、以前の記事でもご紹介いたしました。
このことは、言語聴覚士などの専門家だけでなく、お父様・お母様が我が子の課題を正確に把握することで、日常生活の中で最大限にお子さんの発達を促してあげることができる良い例だと思います。
さらに・・・
お母様から伺ったお話は以上でしたが、おにぎりを作る手伝いからは、ほかにも発達に良い要素があります。
たとえば・・・
他者の気持ちや考えの理解(ソーシャルスキル)
- お父さんは、おにぎりを何個食べるだろう?
- どんなおにぎりが好きだろう?
といったように、家族のいつもの言動を振り返り、各々の好みや食欲などを考えて、おにぎりの数や大きさ、味などを考えることを通して、相手の気持ちや考えを理解する練習をすることができます。
チームワーク
- 僕がお皿を出して、お母さんがおにぎりを並べる
- お母さんがお皿を洗って、僕が拭く
などの役割分担だけでなく、「与えられた任務を責任をもって実行する」「相手の進行具合を確認して、必要によって手伝う」などといったチームワークに必要な要素を培うことができます。
遂行機能(Executive Functions)
- おにぎり作りに必要な道具は何だろう?
- おにぎりを作る工程を考え、道具をどのように配置したら、動きやすいだろうか?
といったことを考え、実行する力、すなわち遂行機能(Executive Functions)を鍛えることにつながります。
微細運動、目と手の協応
手のひらにご飯をのせて、こぼさないようにしっかり見て(目と手の協応)、力をコントロールしながら、おにぎりをきれいに形作る動きの中で、微細運動や目と手の協応を鍛えることができます。
原因と結果の理解
- ふりかけを入れすぎたら、辛くなる
- おにぎりを握るときに力を入れすぎたらご飯がつぶれてしまう
などなど、原因と結果(因果関係)を学ぶことができます。
そして、自信!
手伝いをやり遂げ、自分が作ったものを家族がおいしそうに食べてくれたという経験は、お子さんにとって大きな自信につながります。そして、そうした自信が、さらに複雑な手伝いや学習に挑戦しようという動機につながっていくのです。
以上、あるお母様からお聞きした『おにぎり作り』のお手伝いから、お手伝いがいかにして、お子さんの発達を促すことにつながるのかということについて、まとめてみました。
おうちで過ごす時間が長い今だからこそ、発想の転換で、親子でできる身近なアクティビティにトライしていただきたいと思います。